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2015.03.18害虫情報

衛生害虫が媒介する感染症!

昨年度はデング熱の約70年ぶりの国内感染症の発生、一昨年来のマダニ媒介感染症SFTS等の出現や、西アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱等、地球規模での感染症拡大もあり、昆虫が媒介する感染症の脅威を我々日本人が改めて再認識した年と言えます。また地球温暖化や地球規模でのボーダレス化促進等により、日本に於いてもその脅威は増大しており、その為衛生害虫防除・駆除に関する意識は、より大きく高まっています。
衛生害虫による感染症の予防には、自分の身体は自分で守るという観点から医薬品・医薬部外品の家庭用殺虫剤、忌避剤の使用が非常に有効です。
衛生害虫が媒介する主な感染症は、デング熱だけでは無く、ウエストナイル熱、チクングニア熱、日本脳炎、マラリア、フィラリア等多くが存在し、且つ感染の脅威も年々増大しています。
ここに改めて衛生害虫等が媒介する感染症の情報提供を行います。

表1 昆虫媒介性疾病(WHO統計資料等)
昆虫媒介性疾病(WHO統計資料等)

ヒトスジシマカ、ネッタイシマカ、コガタアカイエカ

【デング熱】
デング熱はヤブカ族で、中でも特にネッタイシマカや日本で普通に生息するヒトスジシマカなどの蚊がデングウイルスを媒介して引き起こす感染症である。表1に示したように年間4億人の患者が発生しており、東南アジアおよび中米に多くの患者がでている
症状は発熱・頭痛・筋肉痛やはしかの症状に似た皮膚発疹がある。治療方法は対症療法が主で、軽度の場合は水分補給、より重度の場合は、点滴静脈注射や輸血といった治療を行う。稀ではあるが、生命を脅かすデング出血熱に発展し、出血、血小板の減少、等を起こしデングショック症候群に発展し出血性ショックを引き起こす。
ウイルス感染の様式としては、蚊の唾液腺にウイルスは存在していて、吸血前に分泌する唾液とともに人体内に侵入する。日本で初めて観察されたデング熱の2次感染はSecondary Vectorといわれるヒトスジシマカという蚊によりひきおこされたものと考えられる。このヒトスジシマカは日本にごく普通にみられる蚊である。
デング熱ウイルスには4つの異なる型があり、ある型に感染すると通常その型に対する免疫を獲得するが他の型に対する免疫は短期間しか持続せず、異なる型に続けて感染すると重度の合併症のリスクが高まる。
海外において、行政はこの出血性デング熱の患者が発生すると、ネッタイシマカの飛翔距離は短いことにより、患者の家を中心にして半径100mの地域にピレスロイド剤のULV散布を行い、ウイルス保有蚊の駆除を行う。またネッタイシマカは通常は家屋内にも潜伏するので、各人が家庭用殺虫を適切に使用して防除する事が肝要であるとされている。

【日本脳炎】
過去には日本脳炎が流行して年間数千人の患者が発生していたが、現在では数人の患者にまで減少した。水田に発生するコガタアカイエカが本感染症のベクターであり、豚がウイルスの増幅動物である(ウイルスは増殖するが、豚そのものは発症しない)。コガタアカイエカがこの豚を吸血すると、十分なウイルスを保有することになりヒトへの伝播が可能になる。しかし、臭いなどの環境問題で養豚場は人里離れた場所に集約され、水田に発生するコガタアカイエカが豚を吸血する頻度が減少し、たとえ吸血してウイルスを保持してもヒトを吸血する機会が減少したことに加え、家屋には空調機、網戸が設置されたこと、さらに、家庭用殺虫剤(蚊取り製品)が普及したことなどにより患者が激減したものと推測される。しかし夏に豚の日本脳炎ウイルスの抗体検査をすると、県にもよるが高いところでは50%以上が陽性であり依然ウイルスが存在していることは明らかである。蚊⇒陽性豚⇒蚊⇒ヒトの感染が大きく復活するとは考えにくいが、日本脳炎も日本ではまだまだ重要な感染症と思われる。

【チクングニア熱】
チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどにより媒介されるウイルス性の疾病である。この主要ベクター(媒介昆虫)は日本に生息するヒトスジシマカで、デング熱やウエストナイル熱と症状が類似している。
このウイルスは1953年にタンザニアで分離された。その後、各地で流行が起こっているが2006年にインド洋に浮かぶ仏領レユニオン島で大流行が起き、住民の3分の1が感染した(表1)。特異的な症状は猛烈な関節痛である。チクングニアという病名は現地語で「まがった」を意味し、関節痛で背をのばして歩けないことから来ている。
国立感染症研究所は日本における流行を予測し、既に対策ガイドラインを作成している。事実これまでに海外より帰国した人の発症した例も知られており、また、航空機の性能向上により高速移動が可能となった現在では、海外で感染しても発症前に帰国しているケースもあると考えられる(発症前の潜伏期間は2-12日間とされている)。従って、発症したときには周りにベクターであるヒトスジシマカが生息しているため周囲に感染拡大する可能性が高いと思われる。いろいろな感染症があるが、おそらくこのチクングニア熱こそが本邦における流行を最も警戒すべき衛生動物媒介性感染症と言える。

【ウエストナイル熱】
ウエストナイルウイルスによる感染症で、1937年にウガンダの西ナイル地方で最初に病原体が分離された。その後アフリカ以外オセアニア、北アメリカ、中東、中央アジア、ヨーロッパに広がっており、2005年米国だけで発症者3000人、死者119人が報告されている。日本でも2005年に米国から帰国した男性会社員が初のウエストナイル熱患者と診断された。
本感染症は通常ヒト同士の直接感染は起こらず、鳥類からの吸血時にウイルスに感染した家蚊やヤブカなどがヒトを刺すことで感染する。
潜伏期間は2~6日程度で、発熱・頭痛・筋肉痛等が主な症状で、感染者の内80%は症状が現れない。
特異的な治療法は無く、対症療法が中心である。

【リーシュマニア症】
リーシュマニア症は、サシチョウバエ類によって媒介される原虫を原因とする人獣共通の感染症で、内臓リーシュマニア症と皮膚リーシュマニア症とに分類される。WHOによれば約90カ国1200万人がリーシュマニアに感染しており、緊急に対策を要する六つの感染症の一つとされている。
内臓リーシュマニア症は感染後数カ月から数年経ってから発熱、脾臓や肝臓の肥大や貧血症状が出て、放置すれば死に至る。オーストラリア大陸を除く全ての大陸の熱帯・亜熱帯地域で見られるが、中でもバングラディッシュ、インド、ネパール、ブラジル、スーダンに多い。皮膚リーシュマニア症は皮膚を冒すもので、サシチョウバエに刺された後、数週間から数カ月後に皮膚に痛みを伴う潰瘍を生じる。皮膚リーシュマニア症はアフガニスタン、イラン、サウジアラビア、シリア、ブラジル、ぺル-などでよく見られる。

【マラリア】
数多くの感染症疾病のなかでも、マラリアによる患者数、死亡者数は突出して多い。現代では、日本やヨーロッパなどの温帯地域はマラリアの流行地帯では無く、流行は熱帯地域に多い。またこれら患者、死亡者の多くがサブサハラとよばれるアフリカのサハラ砂漠以南に集中している。マラリアの発生、流行は熱帯、亜熱帯地域の70カ国以上に分布しており、全世界では年間数億人の患者が発生し、死者数は100万人前後に上る。
マラリアを発症すると40度近くの激しい高熱に襲われるが、比較的短時間で熱は下がる。しかし、三日熱マラリアの場合は48時間おきに、四日熱マラリアの場合は72時間おきに繰り返し高熱に襲われる。一方、熱帯熱マラリアの場合は周期性を示さない。
WHOは1998年にUNICEF、世界銀行とともにロールバックマラリアというキャンペーンを開始した。キャンペーンの目標は2010年までにマラリアによる死亡者を半減することであり、その手段としてピレスロイドを処理した蚊帳を普及することを選択した。WHOが1998年に開始したロールバックマラリアキャンペーンは少しずつではあるが成果をあげはじめ、表1で示した年間100万人以上の死亡者は最近のWHO報告書では70万人に減少している。さらにWHOは国連のMDGに合わせ2015年までに予防、治療可能であるならばマラリアによる死亡者をゼロにするという目標をかかげている。またシャーガス病、リューシュマニア症およびねむり病を根絶するという目標もかかげている。

【フィラリア】
かつては日本にもフィラリア(バンクロフト糸条虫とマレー糸条虫)という感染症があり、西郷隆盛が感染していたという話は有名である。またこの疾病は大洋州・オセアニアからアフリカまで広く存在している。ベクターはイエカ、ヤブカ、ハマダラカである。興味深いのは、イエカ、ハマダラカがベクターの地域では夜間に、ヤブカがベクターの地域では日中に、感染者の抹消血管にミクロフィラリアが現れることである。つまり、フィラリアは蚊に吸血、摂取してもらうことにより分布拡大を図る戦略を徹底しており、蚊の吸血する時間帯以外はリンパ節に潜伏しているわけである。症状は慢性的なものなので、大洋州では対策としてMass drug administrationと言って、年に一度住民全員が駆除剤を飲む方法がとられており効果をあげている。

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